教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、
また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。
1990年、サンフランシスコからシアトルに引っ越す直前、6月に学校が夏休みに入るやいなや、当時、小学生と中学生の子供達を ノースウエストに慣れさせようと、
こちらでのキャンプに4週間いれた。その間、引っ越しの準備をする前に、骨休めにと1週間ほどロンドンに行き、 それから、ほぼ毎年のようにヨーロッパに勉強なり、旅行やコンフェランス、また、料理を教えに行くようになった。
パリ郊外にはコルドンブルー料理学校前ディレクターの友人リズと、超グルメな旦那のリチャードが住んでいるので、 しばしば彼らのカントリーハウスにおじゃまする。もう何度行ったのか、指で数えきれないが、
あるとき、彼らの友人の僧侶がギリシャから長逗留をしているという時があった。ある一日、お昼に今日はラクレットよと、 サンテラスにラクレットのセットをしはじめた。
ジャガイモはキッチンのマイクロウエーブで、かなり長い間(といっても10分ぐらいかな)
調理し、あとは生ハム、コーニション、小たまねぎのピクルスを付け合わせ、仕上げにラクレットチーズをたっぷりと。 ビブレタスのサラダも添えて。
今日は12月20日、本来なら午後から西洋料理のクラスだ。そして一年を 締めくくるクリスマスパーティーの日。
あいにく2―3日前から降り出した雪と、30年ぶりの寒波の影響で、
零下5−6度の凍てつく寒さとなり、雪が降り出した日には延期の知らせを出した。24日のクリスマスイブなら、
少しは気温が上がりそうなので変更。ただ、クラスの用意はというと、今日からはじめなくっちゃで、
凍えるほど寒い中をパイク・プレイスマーケットまで行く。幸い、 我が家には雪の日に強いアウディーのステーション・ワゴンがある。
雪道のドライブは快適だ。
ショーファーを買って出てくれるご主人様々とマーケットに着くとまずはお昼ごはんで下ごしらえ。 『どこにする?』先週はお気に入りの「Cafe
Campagne」だったから、今日は「Le Pichet」。ここのビストロ風が気に入りなので。 レストランには待っている人達もいっぱいで、その間トイレにでも行っておくかなと、
テーブルを縫って歩く間も、「はて、みんなは何を注文して食べているのかな?」とちらちら目を動かす。でも 『何食べたい?』と、席についてメニューに目を通しながら自問自答しても、
あったかそうなのはオニオン・グラタンスープぐらいだったな。
ほぼ、それにでもしようか、でも、あまり食べたくないな、なんて考えているうちに、なんとラクレットがあるではないか。 好ましい内容だし! それに決めた!
運ばれてきたのは、小さなアイアン・スキレット(直径10cmほどの鉄製のフライパン)にチーズが溶けてあつあつ、まだシズリングしている。
別のお皿には生ハム、フレンチハム、コーニションに小たまねぎのピクルス、そしてほかほかのじゃがいもを縦半分に切ったもの。
さっそくじゃがいもにチーズをからめてほおばると、フレッシュ・ラクレットチーズのおいしさが口いっぱいひろがる。『おいしい!』 正解、正解。本当にラクレットチーズを使っているわ。あーこんなにおいしいラクレットを食べたのはひさしぶり。
まさにリズの家の午餐以来だ……なんて思いきや、去年の秋だってスイスのコンフェランスで、フェアウエル・ディナーには、レマン湖のそばのお城で、
ラクレットを食べたのだった。あのときは、大人数で、ラクレットは大きな固まりのまま、電熱でくるくるチーズをまわしながら、 溶け出したのをふたりがかりのシェフが切りとって、テーブルに持ってきたもんだ。各テーブルにはじゃがいものバスケットがあり、
おのおのがすきなだけ自分の皿にとって、運ばれてきたあつあつのチーズをかけて食べる、ただ、それだけだ。
そういえば、リズの家にお世話になって、アメリカに帰ってくる前日、スーパーで、ラクレットチーズを2ポンドほどかってきて、 家にかえってくるやいなや、Sur
la tableで電熱のラクレットセットを買ってきて、毎年、クリスマスイブに 同じお客様がいらっしゃるので、その年はラクレットをサーブしたのだが、
我が家の家族もそのお客様もあまり喜ばない。いつも、手の込んだ料理を出すのが常なので、 あんなに簡単なのは素っ気なくて、気が抜けてしまうのだろうか。
でも、わたしは、この手がかからなくて、あったかくて、あと白いワインとサラダがあればいいという、 急にお見えになったお客様にも出せ、おもてなし料理にもなるラクレットが大好き。
今日はランチのあと、 クリスマスイブのクラス&パーティーで必要なノンペリッシャブリの買い物のほか、マーケットのイタリアンデリで、 フランス直参ではないが、たっぷりのラクレットチーズ、生ハム、エトセトラを仕入れ、行きつけの八百屋、フランクでフィンガリングポテトやビブレタスをしっかり仕入れてきたのはいうまでもない。
このクリスマス・ホリデーの間に急にいらしたお客様には、うれしいもてなしの用意ができた。 アメリカでは約束なしで、急にみえるなんてことは仮に近所でもまずないから、ラクレットを御馳走したいから、
あちこち電話して呼びつけるかな。
外は、ロマンチックな雪景色、家の中ではラクレット。チーズフォンデュとは親戚みたいのものだけど、いいな。 昨日は、その前、宇和島屋でみつけたノンMSGのキムチをつかって、冷蔵庫のあまりものの野菜を何種類もいれて、
豆腐チゲ鍋もよかったが、寒い時の鍋料理、ラクレット、ごきげん、ごきげん。
この寒い冬もあたたかい料理をつくれる材料さえ確保していれば、 楽しい雪の日々だわ。
2008年12月

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