杉山洋子料理工房
 


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FOOD TALK

教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、 また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。



母の日

朝早く起きて、着物を着付けて、ガラッガラのフリーウェイを飛ばして、シアトルダウンタウンのオリンピック・フェアモント・ホテルに向かう。 今日は、京都裏千家の大宗匠をお迎えしての茶会、そしてランチョン。 会場に着くと、すでに淡交会の役員の方達が会場のセットアップしていて、裏千家の業躰さん達が次々到着される。 落ち着いた、とてもいい感じの仮の畳の茶室、御薗棚がしつられてある。三々五々、皆、役割を分担して、お客様を待ち受ける。

photo私の受け持ちは、水屋。すでに淡交会の方々が朝6時から来て、会場のセットアップも済まされている。 ところが一席目のお茶がぬるくて、全然だめ。私がチェックしてみると、お湯をいれた銀の湯沸かしにはコードもバーナーもついてなく、 その上、茶碗を温めたり、濯いだりのおけは水のように冷たい。 ホテルの係員にすぐ指示をして、あつあつのものと取りかえてもらう。冷たい抹茶をサーブされるほど悲しいことはない。

二席目はまだまし。また、ホテルの係員になにかバーナーつきのものはないかと尋ねると、やっと三席目に少々小型だがバーナー付き銀の湯沸かしを持ってきてくれた。その頃になって、大宗匠のご到着。総領事や両忘禅庵大木住職、シアトル 淡交会会長などなど。お席の三席目からの来賓の方々にお出ししたお茶は、やっと満足できるものとなった。 大寄席の茶会は全体を見渡し、落ち度がないか、その場での機転のきかし方と、 ひとりでも気がついた事は、実践しなくてはならない。そういう細々としたことの気配りが全体の成果となることが多い。

最後のお席に大宗匠、来賓の方々とともに、席に座る。
茶箱の花の点前を楽しみながらも、大宗匠が来賓の方々に、お茶を楽しむコツなどを伝授されているのを、微笑ましく見守る。 その席が終わった合間に、大宗匠に話しかける。
『ホテルにお着きになったおり,お届けしましたオレンジ、召し上がられましたか』と。

実は、今回の3日間にわたるイベントに先立って、2日前に大宗匠や業躰さん達一行がいらっしゃった。 太平洋を飛んでらしてお着きになったとき、さぞお疲れでしょう。私も東京のいいホテルにたまに宿泊したとき、部屋にチェックインしたら、 やおらフレッシュ・スクイーズド・オレンジジュースを部屋に持ってきてくれるのには、その歓迎に心もなごみ、体もリフレッシュできたものだ。 ただ単に皆と同じく、ホテルの玄関口にお出迎えしてもつまらない。わたしがわたし流に歓迎できることは?と、 前日、遅く、料理を教えて帰ってきたときに自問自答。 まさに、このフレッシュ・スクイーズド・オレンジジュースをつくり、よく冷やしてお届けしようと思い立つ。 翌早朝に起きたとき、そうだ、オレンジ・セクションもおつくりしてと、いくつかのオレンジを吟味しながらつくっていく。着物もきなければで、その間、主人にもヘルプを頼み、オレンジをスクイーズしてもらう。 夫婦そろっての合作。神戸から買ってきたとっても形も美しく、シンプルなガラスの容器にそれぞれを入れ、小さなアイスボックスに氷をつめ、二つ並べて、小さなメッセージ『大宗匠様、どうぞ、旅のお疲れをオレンジでリフレッシュなさってください』をそえてお届けした。

家に帰ってきても、大宗匠、召し上がられたかなあ。このオレンジは主人がカリフォルニアで特別に手がけた、畑指定の特上オレンジ。 アメリカのスーパーでは手に入らない、日本輸出向けのもの。生産者から直接自宅に送らせたもので、その中でも、ひとつひとつ味見をして、 うん、これならいい、と、心をこめておつくりした。

こんな簡単なもの一つでも、私の料理クラスで使う材料と同じ扱いを心がけたのだった。 そして、もとの茶会会場にかえるが、大宗匠は『おお、あなたでしたか。本当においしいオレンジでした。 だれが作ってくれたのか、名前も書いてなかったから、御礼の言いようもなかった。そうでしたか。 あのアイスボックスはいいアイディアでしたね。翌日になっても、まだ氷が解けず、しっかり残っていました。 おかげさまで、残らずいただきましたよ』と、両手で私の手をとって、感謝された(三人分ぐらいたっぷりつくってお持ちしたのでした)。 そして、私の肩に手をまわして、『オーイ、カメラマン、写真、写真』と、オフィシャルな写真、大宗匠とツーショットに納まる。 淡交社のオフィシャル・カメラマンの方、写真、送ってくださるかしら?

普段から実践している、おもてなしの心を、このエピソードは如実に語ってくれるだろう。茶会のあとのガーデンコートのランチョンも楽しく、また私たちが歓迎すべきはずなのに、 大宗匠が総勢130名ほどのゲストをランチでもてなしてくださったのだった。なんという大きなお心でしょう。

そしてその日、帰ってお風呂につかり、ゆっくり夕方まで過ごしていると、息子の車の音が。しばらくすると、二階まで台所の音がひびき、 いい匂いがただよってくる。 そして呼ばれて、ちょっと着替えて階下におりていくと、すばらしい母の日のディナーを息子と主人が作ってくれていた。『母の日おめでとう』と、私の大好きな銘柄のシャンペンに、バラの花。

門前の小僧で、息子は大の料理好き。いつかあまりに褒めると、『僕、舌に保険をかけようかな』と、のたまう。 いつも作ってくれるもので、ほんとまずいと思うものにあたったことがないくらい料理感覚が優れている。 レシピなんか見たりせず、ハートで作っているのだ。今日も新しい料理のお披露目だ。 ホント、おいしかったよ。チキンや松の実、マンゴーなどをいれて、中華風のレタスカップのアパタイザー。 そして主人はお得意のおすし、豪華太巻き、それにお吸い物(お吸い物だけは、インスタントだったけどネ)。
お昼も夜も、こんなにすてきな母の日、ありがとう。

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2008年5月




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