教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。

10月17日、シアトルを発ち、ワシントンDC経由ミラノに18日早朝に着く。マルペンザ国際空港からバスで1時間ちょっと、ミラノ中央駅に。荷物を預け、地下鉄でドウモまで適当にぶらりと3〜4時間過ごし、ジェノア行きの列車のホームを探すが、掲示板には載っていない。慌てて駅員に聞くと、ストライキで汽車は出ないという。この汽車でジェノアまで行き、フランスのプロバンスから車で来る友人夫妻が駅でピックアップしてくれ、ディナーのあとフェリーに乗る予定がとたんに狂ってしまう。そこまで行く手段は? 途方にくれて、友人の携帯に電話する。一にもニにもなく、はるかジェノアからミラノまで、迎えに来てくれるという。
花の金曜日で、世界中のどこの都市にももれなく渋滞で、結局、予想の倍以上の時間がかかってしまって、その日、ジェノアのマーケット闊歩に加え、お気に入りのトラットリアのディナーをミスするはめに。本当に申し訳ないし、残念だったが、友情をおなかいっぱいいただいた。ようやくパレルモ行きのフェリーに乗り、船室におさまる。このフェリーの豪華さは、飛鳥におとらない。夜の11時に出航だが、船のカフェテリア、バーともども、食事はおいしいし安い。船のインテリアもごきげんだ。
翌日の午後8時にパレルモに着く。気温は17℃〜22℃、暖かくて、気持ちよい。岬の突端のホテルに着く。さっそく荷物をおいて、食事をしに出る。皆、食のプロフェッショナルで鼻がきく。ジェノアで果たせなかったシーフード・トラットリアで、シシリア最初のディナーだ。メニューを見て心が踊る。目の前の海から捕れる豊富な魚介類のオンパレード。ウエイター達もここはシシリ−、皆、陽気だ。ワインがまた、この地の太陽をいっぱい浴びて収穫されたぶどうからだもの、たまらなく幸せな気分にさせられる。めずらしいこの土地の前菜の作り方をキッチンから聞いてきては、伝授してくれる。うにも殻から出したてをサーブしてくれる。調味料もなにもなしで、そのままがいいという。ちなみにレモンをかけてみると、ほんと、かけないほうがいいみたい。おおいに食べ、飲み、笑い、楽しい夕食が終わったのは、夜中の一時半。翌朝、まばゆい太陽光線を感じ、起きてびっくりしたのは、部屋から眺めるシシリアの海。小さな漁船に船外機をつけて走る漁師の影絵。朝の海がすがすがしい。これから1週間のシシリアでの、食のコンフェランスの幕開けだ。
今回のコンフェランスで一番心に残ったのは、シシリア島の西北に位置する、あのマルサラワインで有名な、紀元前にできたマルサラの町のすこし北に、昔ながらの塩田がある。オランダを想わせる風車と塩田の風景は、日本の天火干しの塩田の雰囲気とはかけ離れて、私にインパクトを与える。昔ながらの製法で、しかも、あかぬけた素朴なミル。作り出だされた塩はミネラルたっぷりの白いクリスタルのように輝き、甘い。この塩で、食べ物の保存など何世紀に渡って重宝してきたのだろう。どこの名所、遺跡よりも、私はここの風景を愛す。
シシリアの海の幸は、小さなイカのフライ、たこのトマト煮、サ−ディ−ンのマリネ、あさりやム−ル貝のワイン蒸し、生のうに、今日の収穫からの魚介のグリル、海の幸サラダ、海の幸パスタと、目白押し。チックピーから作った前菜もどこでも供される。デザートはリッチなカサタ。これは、層になったアイスクリーム。おいしくて食べ過ぎると、大変。
ワインが、どれを飲んでも太陽の幸せを感じるおいしさ。ワシントン州のハ−シュなワインや、タスマニアのワインなどからすると、その気候から出来上がりが歴然とする。一度にシシリア・ワインが大好きになった。シシリアの中央部に位置するリガリアリ・ワイナリーは、アンナトスカの一族の経営する老舗のワインメーカー。520ヘクタールを所有して、ぶどう、小麦、とうもろこし、トマトなど、農産物を作っている。羊やぎも飼っている。ぶどう畑は300ヘクタールにおよぶ。ワイン・テ−スティングが終わると、羊のミルクから作るピコリーノ・チーズにリコッタ・チーズの作り方を見せてもらう。リコッタはピコリ−ノを作ったあとの2番煎じから作るが、出来たては、汲み出し豆腐のそれと同じ、また、なんてやさしい、お豆腐とおなじような味がする。お昼にシシリア料理をたくさんいただいて、料理学校や宿舎、アンナの住居のほうも見せていただく。まさにカントリー。お嫁さんのローズマリーも離れのほうで、B&Bをしている。牧歌的。のんびりするだろうな。
見学に行ったもう一つのワイナリーは、つい最近、火山噴火したエトナ山のすそのに最新設備を備えたムルゴだ。おいしい。1日前に噴火したエトナ山の轟音をききながら、最近出来たばかりのワイナリーのゲストハウスで2晩泊めてもらったが、夜中に2、3度地震を感じた。この村で、シシリアに来てから一度もピッツアを食べてないので、皆で食べに行ったが、季節のポルチニ・マッシュルームをたっぷりソテーしたのを前菜に。パレルモでも盛装して、貴族の館に食事に招かれたり、カタニアではイギリスの皇太后がいらしたという荘園でのランチとか、気取ったハイエンドの食事もいっぱいだったけれど、なによりもこのピッツァリアのポルチニには、かなわない。
歴史を感じるシシリア、紺碧の地中海で泳げた幸せ、太陽いっぱいのワイン、漁師が小舟を操って、漁に行ってきたそのデイキャッチを楽しめる。ここは、まちがいなくまた来たいところだと思った。季節はずれの観光客でまだいっぱいのリゾートのタオルミ−ナの小さな町もかわいい。マフィアなど影もない島にまた帰ってこよう、そういう思いをこめて、ローマへと旅を続けたのだった。