杉山洋子料理工房
 


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FOOD TALK

教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、 また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。



茶室

茶室


サンクスギビング前、熟慮に熟慮を重ね、測るところはくまなく測り、二階にあった2畳の畳ベッドを階下の私の書斎に降ろしてきた。

かれこれ、もう10年か11年前にもなるが、ワシントン州バンクーバーから東へ約1時間弱のスティーブンソンに、千葉の両忘禅庵の 分家の臨済宗のお寺があり、 そのお寺の敷地(山あり谷あり湖ありで、雪が降ったら自分の地所でスキーができるほど広大!)から切り出した木材で、裏千家シアトル出張所に出入りの数寄屋大工さんが茶室を作ったことがある。たまたまそのお寺の設計が、 私の茶道の指南、Bonnie Mitchell 先生のご主人であったこともあり、興味をそそられて、一度大工さんにお寺まで案内していただいたことがあった。 二度目にお寺に行った時は、東京のここ10年来の友人を連れていったが、その友人がそのお寺のオーナーである住職さんとは、 小学校からのベストフレンドというではないか。 なんと奇遇。

お寺には座禅など土曜日から泊まりがけでいらっしゃる方々のための宿坊ともいえるお部屋が2つほどあるので、 その友人母娘を連れてはじめて一泊したときは、そのお部屋に泊めていただいた。三度目に足を運んだ時は、 バンクーバー在住の友人と、そこに別荘をお持ちの作家の桐島洋子さん母、娘、孫と三代を案内して、2泊3日、中いちにち、 散歩や陶芸などしてゆっくりお寺で過ごすことができたが、この時は、私ひとり茶室に泊めてもらったのだった。 畳の匂いがかぐわしく、ゆったりふとんがうれしかった。

で、シアトルに帰ってくるなり、その大工さんに連絡して、2畳の床の間付き畳ベッドをつくってもらい、 敷き布団は、サンフランシスコに注文して以来ごきげん、アメリカでも畳の上で、布団で寝ていたのだった。 ところが夏に、主人が肩をいため、手術をしてから、どうしても、起き上がりができたりするベッドに替えたいという。 じゃあどこに畳ベッドをおこうか?と考えに考えて、階下のデン(私の書斎)しかないな、と、山ほどの本や書類、本箱を移動しはじめた。 もちろん、その前に何度も何度も計測をしてのこと。そしてラッキーなことに、畳ベッドを動かしてもらう前々日、 普段はアメリカ各地で仕事があるというその数寄屋大工さんに連絡がつき、次の日、その移動をまかせられるという信じられない奇跡が起きた。 そして、その移動中、床が動くではないか。ちょうどそれを真ん中にすえると、花入れなどをおく床板はなくなるが、 亭主と客との間の道具板になるではないか。茶室が完成。

今は、まだ冬なので、隅炉にしていて、花入れもゆったりおける余裕があってよい。
使いはじめは、除夜釜。12月31日、大晦日、お料理の生徒さんがご挨拶にきたいといわれ、 急遽、普段奥伝レベルの練習をいっしょにしているお茶の仲間を誘って、(その日に決めて、その日にお茶会!)除夜釜をしようという段取りとなった。 NYからクリスマス休暇で帰ってきている娘がよく手伝ってくれるので、御節作りも一段落。前々日から煮込みはじめたおでんもあるし、 年越しそばの用意もある。お菓子は、七尾の昆布屋さんの友人からいただいた能登のころ柿に白あんをつめて、とてもおいしい和菓子ができるので、 それを主菓子、干菓子は、いろいろ取り合わせ、濃茶をたてることにした。 

特殊点前の隅炉は、薄茶、濃茶の点前しか、教科本に載っていないので、果たして,曲げの水差しをおいての唐物をしてもいいのかわからないが、 why not?という気持ちでしつらえる。12月に入って、たった1週しか茶のお稽古がなかったため、ほぼ一ヶ月ぶりというと、いろいろ忘れているなあと、 点前をしながら、感心する。道を究めるとまでいかなくても、道を修めるというのは、毎日、毎日やってこそ。 茶会は、9時半からということで、それまで、NHKの「紅白」とおでんを楽しみ、やおら、お客様(ふたり)を茶室に案内する。

風炉先屏風は私の手作り。炉縁は1年ほど前に主人に作ってもらったもの。花入れは、まだサンフランシスコに住んでいた時に、 NYの高層ビルをイメージして3カ月かけて作った楽焼きのもの、結構大きいが、その上にちょこんとまだつぼみしかつけていない水仙隠れて見えないが、 鉢植えポット)をはめ込む。曲げの水差しは、1昨年、東北は大館までいって買ってきた作家もの。 そして、壁の色紙は大津の月心寺のまだお会いしたことはないが、とても尊敬している明道尼さんの「無事」。 なんだか、コンテンポラリーな空間、たたずまい。夜だったので、昨夏バケーションでカナダのSalt spring islandへいった時に、 木のアルティザン工房でもとめたキャンドルスタンドにビースワックスのミニキャンドルを灯し、障子のついたてのうしろからのほの 明るいライティングと合わせると心から落ち着く。

年改まって新年、お雑煮や御節で家族と祝た午後、ひとりで、茶室にこもり、茶の湯にひたることができた。 今年の年初め、一番心うれしい自身への贈り物になった。

昔、千の利休が侘び茶を確立して遂に点てたのが1畳台目の茶室、今日庵である。
この2畳の茶室は、今年になってから、初釜(3人)、茶懐石のクラス&茶会(5人まで)と使い勝手も上々、 いらした方々もとても落ち着くとおっしゃる。
一客一亭の茶事なども楽しいだろうなと思う。

今は、1月の茶のお稽古でしている長板、炉壇を動かして、それも有り合わせのみたての道具で練習できる。 いままで、半畳のtea spaceをファミリールームに作ってやっていたのだが、 そして少しづつお茶の道具を日本へ行くたびに持ち帰ってきたのが、すぐ役にたつ。 あるものは、遠くまで旅して求め心いれたとてもいいもの、 そしてあるものは、京都の茶道具の問屋さんで間に合わせたもの、 また、シアトルまでいらした著名な作家から、そして、とても驚きは、お茶をやっているというだけで、 茶碗なり、道具なり、どれだけ、友人、知人、家族からいただいているかということ。 それらが、この茶室に鎮座するとき、ああ、そういう人達ともいっしょに、このお茶を楽しんでいるのだと、そのスピリッツを感じるのである。

いつかもこのFOOD TALKに書いたように、電熱をつかうので(あまりわからないようにしている)15分もあったら、釜に湯がたぎるので、 いつでも、だれがきてもすぐ茶を「喫茶去」(お茶を一服いかがですか)おすすめできるよう、 我が家の茶室で「在釜」(ざいふ)をこころがけようと思う。 お茶の楽しみは、いろいろ、様々な生活にとけ込んだ和の心を反映できるので、また機会があるごとに、語っていこうと思う。

2009年1月




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