杉山洋子料理工房
 


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FOOD TALK

教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、 また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。



朝茶事

7月のはじめ、自宅で朝茶事をした。

二客一亭で、お客様はふたり。気のおけないお茶のクラスメートを呼んだ。亭主、半東、水屋を一人でこなす。 ちょっと茶人ぽいと、ひとり悦に入りながら、早朝から準備をする。お客様のふたりはともに日系人、アメリカ人であるが、 それぞれ自分の茶室を持っている。私の家には茶室はない。もっぱらお客さまの時、お茶のおもてなしはオープンキッチン にあるアイランドの片隅のスト―ブで、こぶりの釜をかけてする。でも今回はリビングルーム(ファミリールーム)を茶室 に変えて、創意、工夫をこらし、楽しみながら前日から用意した。

茶事は、何より、する前のシュミレーションからはじまる。風炉は3年ほど前に銀座のまつやに行った時に見つけた、 作家もののコンテンポラリーな形のすっきりしたもの。釜は小さな鈴釜、これはシアトルで見つけたもの。風炉の灰、 炭はサンフランシスコで買って来たもの。枝炭、柄杓、等等は、京都で折り節につけ買ってきたものだ。

敷板は竹のまな板を敷板のサイズに主人に切ってもらう。庭の白樺と竹を切って、結界を自分で作った。今年出て来た竹の 一本に根元がぐいーと曲がったものがある。あれを使ってみよう……。キッチンの窓から見える、その竹のとってもいい利用法だと思った。

朝茶事

作ってみると、想像以上に素敵なのができた。水指しは、2000年に変わる年のクリスマスとお正月を我が家で過ごした神戸の友人が、 彼女のお母さんのものだったと、お土産に持ってきてくれたもの。これも鈴釜に似合ってこぶりのもの。茶入れはサンフランシスコの朝吉 で買った丹波のなす型。茶わんをセットする前に、そう、炭点前のための炭かご、これは、ダウンタウンの宇和島屋のお花のセクションで 見つけた見立てのかご、ぴったりのサイズ。羽箒がない……。すべてが小さめなので、なんとケーキのデコレーション用に使う、真っ白な ペーストリーの羽を使う。色も対照的で、まことにすっきりとその役をしてくれそう。また、私の風炉は鉄のふちがないものだから、まことに好都合だ。

火ばしはきっちり買ってきているのに、ふさわしい鉗がないのに気が付いたが、炭とり用のでいいことにする。さて茶碗。夏なので濃い茶は 井戸茶わんを使うことにする。薄茶用には、まったくいいものではないが、大阪の友人からの贈答品(たしか、羊羹かなにかといっしょに付いて いたっけ……)を使うことにする。でも、それが唯一の夏茶碗だからよしとする。たばこ盆はみたてのノースウエスト特産の箱に、 そば猪口に、竹を切ったのをセットにして、バランスよく収まる。我ながら次々と、こうもみたてを自分の家の中に見つけられるものだと感心する。 半畳の畳の代わりはネイビーブルーのフェルトの敷きもの。すっきりとマッチして雰囲気が出るのが不思議。建水は昔、横浜で買ってきた黄瀬戸を使った。

と、こう道具類をなんとかしつらえ、今度は軸と花の用意だ。

朝茶事大の親友がシアトルから横浜に引っ越す時(引っ越しのお手伝いをすると、いろいろないらないものまで、これいらない?あれいらない? と聞かれ、挙げ句の果てには我が家にいらないものが増えるので、もっぱらお手伝いをしない主義なのだが、この時は、友人と家族にお昼を届け、 これだけはもらってしまったという色紙かけ。表装もとっても素敵)に、我が家に来た軸に大津の月心寺の明道尼筆の「無事」。これはたまたま、 須磨の姉に縁あってもらったもの。花入れは20年以上前に、サンフランシスコで陶芸をやっていた時の自作の楽の背の高いベース。 はじめてニューヨークに行った後、ああいう高層ビルをイメージしての作品だ。それに合うガラスのベースをインナーにして (これを見つけるのにも、数年かかった気がする)、本日のお客に昨年いただいたわれもこうひと株が元気に大きくなったのを生ける。 すべてがマッチし、とってもいい感じ。

朝茶事もちろん露地もないが、サンフランシスコ時代の友人が作ってくれた大きな和風のデザイン鉢と京都でそれに合わせて組んでもらった竹の杓置き。 それに水をはって、玄関の横に置き、青い楓の大きめの一枝を添えると、瞬く間につくばいになる。あとは香をたいてお客さまを迎える。

定刻にお客様が連なってみえる。素晴らしい着物姿。もてなす方の気がしまるし、気分が高揚する。

千鳥ののし梅いりの汲み出しからはじまって、炭点前の後に懐石をお出しする。一文字ごはん、夏のまっ赤なシュガートマトを汁にし、 今赤々と登る夏の太陽にみたて、向こう付けは夏野菜をつかった白あえ。碗盛りは青よせのしんじょ、緑にしみる木々をうつして。焼きものは 朝茶事では出さない約束なので、一汁二菜とする。後は八寸、香の物だが、香の物には力をいれ、七種類。もちろん昨年の秋から手塩にかけて 育てて来た糠漬けはいうもがな。

食後の主菓子は手作りわらびもち。このわらび粉は、京都で買ってきたものだけれど、本物は値段がすごくする。貴重な粉なのだ。濃茶は又玄。 干菓子は、娘がサンフランシスコから買ってきてくれたフルーツゼリーと和三盆。薄茶は裏千家シアトル出張所のボニー先生から譲っていただいたもの。

手伝いもなく、一人三役(亭主、半東、水屋)をこなしながら、すすめるお茶事は、結構年季もいるし、まず、茶懐石を自在にこなせなくてはできな いであろう。私は料理は教えているので、わけないのだが、すべてを滑らかに進行させるのは間合いが問題で、なかなか難しい。でも、なんという醍醐味。 ひとつの空間を生みだし、そこで、茶ができる。

趣味の遊びでしかないが、するのが本当に楽しいと思った。それとともに、この道具類の取り揃え、なぜか一つ一つのものにいろいろな思い出と、 この場にはいないが友人たちが携わって、気持ちがここにあると感じた。

夏の早朝、すがすがしい気分にひたれる、おすすめ茶事。

次の目標は、巻き紙に茶事のお招きを筆でしたためるところからはじまって、盆だてをする。スキー事故から膝を悪くしてしまって、 長時間座るのが無理なので、後炭を省略できる茶事に限るが、また新しい高い目標があるのは、お茶の励みになる。




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