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教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、 また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。 この秋で輪島に通い出して9回になる。その前後、珠洲の「さか本」に泊まるのが恒例だ。秋の松茸の料理が出る頃、 新そばにはまだほんの少し早いが、さか本のほんまものの料理を目当てに何度行ったことだろう。
そのさか本さんに輪島の漆作家、瀬戸国勝さんを紹介していただいた。コンテンポラリーな感覚を持っておられ、海外での個展でも知られている。 汁碗を口にすると、なんともやさしげな漆の感触がある。これで飲むと味噌汁の味が倍増する。 一枚のくりぬき盆、さか本のおばばさまがこんな高価なものなのに、 無造作にそばの実をがさっとすくって日常使いしているのに、私は、私流にと思って求めたもの、 その黒のやさしさ、自然さが大好きで、なにをのせても合う、魔法のような盆ではある。椿皿。 色目がなんともはんなりした赤の漆、姿、形とも秀でている。利休箸にふきうるしをしたものは、「くわい(瀬戸さんの店の名前)」で真っ先に買ったもの。 なにか日本人の心がある。そういえば馬上杯をひとつほしいと思いながら、買い忘れている。 ちいさな細長い二段の重箱。ちょっとした干菓子いれにも、お正月に八寸をいれるのに、上に海の物、下に山のものをいれてもおもしろそう。 さか本では、お手拭き用の藍染めのタオルをのせて、食前に出てくる。涙がでそうなぐらい、いい感じ。
先生のご紹介で、輪島でも一番の漆やさんである「尚古堂」さんを見学。日本でも名だたる高級料亭におろしておられる輪島塗の塗師屋さんである。 バブルの頃にも、昔からの直接販売だけに力をいれ、信用第一の看板を守ってこられた。春に注文した懐石用の椀が出来上がった。 発注先がアメリカであれ、本になる椀が出来上がると、チェックにと、ひとつを送ってこられた。 まさに、このつやけしの色、この形。秋にとうとう出来上がった。デザインも上々。金箔のおき具合がもう少しかなと、区切りのときに、 また加えてもらうことにしている。顧客の要望には、なににでも応じていただける。 驚きは何年か前、ウイスコンシンへ主人がセンチメンタル・ジャーニー(留学時代を送った大学町へ旅行)に連れていってくれた時、 町のジャンク・アンティークストアで、日本の漆のコーディアルを見つけ、その形がすきで買って来た物がある。 実際、中の金箔の色も落ち着いてすてきなのであるが、そとの溜め塗りのところに描かれた絵がどうにもこうにも気に入らない。 ただ、ステムの台にちりばめられた桜がとてもいい。なかに完全にひび割れしたものひとつ、 飲み口がチップしているのもあるというような状態のをそれまで、がまんしながら、時折使っていたのだが、 それらを尚古堂さんに修理に出した。その出来映えは、ただただ信じられないくらい、すばらしいものだった。 これで来年の春、おひろめの茶事ができるか!と大喜びしている。素人ではまったく不可能と思っていたものを可能にしていただけるのである。 今迄、塗りで傷ついたものとかにいたく心を痛めていたものだが、これで、そういう憂慮とはお別れ、何でもまた再生して、 元気になった漆を使うことができる。いつでもご紹介いたします。
新進漆作家の赤木明登さんの工房におじゃました。これも高木先生の設計である。輪島市内を離れ、20分ほどのドライブで、 日本の原風景ともいえるような景色を通って、作家の家と工房がある。デッキに出ると、なんと京都の美山荘とおもうばかり。 せせらぎがそばをながれ、このデッキは三月の雪のなごりの季節に泊まった時には、流木と椿を一輪、活けてあった、 それが、雪とマッチして、感動させられたものだったが、それを彷彿させられる。すばらしい環境のなかで、若い人達が一心に働いている。 いい作品が次々できそうな、そんな工房である。 輪島の朝市通りにある『わいち』でもその作品がみられるが、そこで気に入っていた小パン皿というのと、手作りのスプーンをゆずっていただいた。 李朝ものをおもわせるような力強い作風であるが、これがまた、なんともやさしい。トーストであれ、マフィンであれ、 使うのがうれしくなるようなこの皿の使いはじめは、干菓子盆にした。アメリカ人のお茶のクラスメートが和菓子のクラスを教えていて、 先日、秋の吹き寄せを作ったのを盛ってみた。すばらしい景色が出来上がる。焼きそばをもっても似合う。すしをもってもいいだろう。 ごきげん、ごきげん。これから、いろいろな使い方の発見がおもしろい、未来のある漆のお皿である。 もう一軒。昔からの塗師やさんで今なお、昔からの住まいと商を兼ねた伝統的な塗師の家に住んでおられる大崎さん。 秘蔵の人間国宝の作った作品次々見せていただいた。玄関から長々とすのこ伝いに足を運び、倉が作業場になっている。 伝統的な作品をたくさん、また、市場に出ていない新しい試みの作品もみせていただいた。 今の生活で、一番つかう漆ものはなにかを提案してほしいと、また、新しい作品の御敷きを2枚借りて来た。 いろいろなものをおいては試している。御敷き一枚あるだけで、その上に置く器がどれだけ映えるか、日本の美学をまざまざ目にしている。 輪島がぐーんと身近に感ぜられ、漆が身近にある生活をもっと楽しんでみようとおもっている。
えがらまんじゅう。朝市通りの端っこ、「塚本さん」のえがらまんじゅう。 この秋は、いしるやさざえの麹漬けをつくっておられる<ミッちゃん>や海士(輪島では海女のことを海士とよぶのだそうな)の<つきさん> たちとも知り合いになり、いろいろと食材の知識が広がった。食材といえば中居(という漁師町)の海のそばの森川さんとこでは、 このこを賞味させてもらい、また、それをわけてもらってきた。海鼠の卵巣を干したもので、珍味中の珍味。せいぜい10 cmの三角一枚つくるのに、 数キロから数十キロも海鼠がいるそうだ。昼間から私のおもたせのSt.MichelleワイナリーのMerlotをあけて、このこをほんのちょいとあぶったもので、 酒盛りがはじまったものだ。家の前には和船がつながれていて、魚も澄んだ水で泳いでいる、まことに、ひなびた風情のある、いい所である。 この得難い珍味の数々が、即、秋の茶懐石の膳をうるわしたことを付け加えておこう。 輪島には、まだまだ、お気に入りの紹介したい場所、宿、店、食材等、多々あるが、これからも、足繁く通いたくなる文化がある。 2005年11月
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