FOOD TALK
土鍋
秋に日本からごはんが炊ける土鍋を買ってきた。「伊賀焼き」である。
こんなに重いのを持ってきたのは、ひとつは、京都の行きつけのお宿や、料理やさんで、この土鍋で炊いた炊きたてのごはんをサーブされ、本当においしかったから。 もうひとつは、茶懐石用のごはんを炊くため。それも、出来たてのまだ“ぐじゅぐじゅ”しているところを一文字にすくって入れるためと、最後のおこげを湯斗にこがし湯として 必要なためで、一石二鳥や三鳥の役目を果たしてくれる、うれしい台所の役者である。
もう8年ほど前になるが、大学の大先輩のご夫婦が同窓会の発足会にいらしたとき、シアトル在住のものたちが、1泊のお宿を提供したことがあった。その時、冬場にスキーで靭帯を切って、オフィシャルなクラスや、コンベンションでのスピーカー(講師)として超忙しかったので、 足がぶらぶらのまま半年、手術を遅らせ、術後、まだ松葉杖をついていたものだったが、それでも是非にと来ていただいたお客様だった。 一度泊まっていただいたら、すっかり親しくなって、冬、クリスマス頃にまたいらしたが、その時に茶粥を炊く土鍋を持ってきてくださった。 3人分ぐらいのお粥が炊け、姿、形、色となんともすばらしく、奈良の茶粥の炊き方を教わってから、朝粥のパーティーまでしたほど、惚れこんだ土鍋だった。
普段の生活は、主人と二人きりなので、その後、神戸に帰ったとき、ちょうど二人分によさそうな、これまた感じがいい粥用の伊賀焼きの土鍋を買って愛用している。 もう、何年使っているだろうか。
冬場、活躍してくれるのが、ふつうの土鍋、いわゆる鍋料理用の土鍋。
結婚して、サンフランシスコに住みだしたとき、日本から料亭の御曹司だった友人が日本料理に欠かせない、 銅の天ぷら鍋、卵焼き器、金くし、すりこぎ、なんやかやプロ用のものをたくさん送ってくれた。それらはまだ現役で、 孫子の代まで問題なく使える代物だ。それに加え、思い出深いのが、頴川美術館のオーナーで、関西のヨット界では、 その昔の日本外洋帆走協会の内海支部会員番号00番のヨットマン、茶人であり、美術に奥深い大先輩、頴川ご夫妻が、 結婚して間がないとき住んでいたサンフランシスコまで送ってくださったのが、今でも惜しい、土鍋だった。
形、大きさ、釉薬、とってもすばらしいものだったが、郵送途中で、ヒビが入って、いかように粥を炊いてとめても、 ヒビから漏れてしまって、泣く泣く捨ててしまった。そのかわりに何年も前、神戸に帰った折りに、ま、適当なのを買って持ってきたが、 本当によく使うお気に入りだ。
冬中活躍してくれるすぐれもの。お客様の目の前でつくる鍋物、しゃぶしゃぶ、寄せ鍋は、本当にこころ暖まる。
まだ一度もつくったことがない鍋物が土手鍋なので、今度作ろうと思っている。12月、クリスマス前、CANLISの前エグゼクティブ・シェフ、 また、シアトルタイムス紙日曜版の食のコラムの記事や、パシフィック・ノースウエストの料理本を何冊か出しているシェフ、 グレッグ・アトキンスン氏の家のディナー・パーティーで、フレンチ産のとおなじフラットな牡蠣をそれにあったベストな白ワインを呈されたが、 その時そうだ、こんなにいい牡蠣があったら、わたしの土鍋で土手鍋を一度しようと。とにかく、オイスター・ベッドからその日とれたての牡蠣が食べられるのだから、 作る前から「おいしそう」とうなってしまう。それときりたんぽ鍋。世界を闊歩してても東北にはまだ行ったことがないのが残念。
それに加え、我が家ではフランスやイタリアの土鍋が大活躍する。蓋付きの片手鍋から、寸胴の鍋、いろいろなサイズのベーカー、その何れをとっても、いいところずくめである。これらは直接、火にはかけられない。 もっぱらオーブン用である。今月は、これらの土鍋をつかった西洋料理のクラスをする。土鍋を使って炊いたごはんや、 お粥がおいしいのと同様、西洋料理でもオーブンにいれても、空気が対流し、鍋が呼吸をしながら、煮えていくので、 その出来上がりは本当にまろやかで、おいしい。肉料理でも、シチューでも、ローストでも、野菜でも、うなってしまうほど、風味がちがう。すぐれものを写真(記事下)で紹介しよう。
オーブンにいれると自動的においしいものの出来上がり。また、土は熱を20~30分でも保持しているので、その頃ふたを開けてもまだ湯気がふんわかとでてくるし、 ローストはしっとり。オーブンから食卓にそのまま出せるし、あつあつをいただくのもよし。 写真をとるのが下手なので、紙面ではその飛び上がらんばかりのすばらしさをお伝えできないのが残念。 でも、料理クラスにこられた方々は、にっこりほくほくの笑顔でうなずいていただけると思っている。