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FOOD TALK

九州普段着の温泉巡り

 

 

9月終わり、大型台風が九州に接近しているというのに、九州をめざして伊丹から発つことになった。シアトルにふたごのお孫ちゃん達のお世話で早々、リタイアなさったご主人と、3年前までカーネーションに2年半ほど在住の宮崎からの裏千家のお茶の教授で、我が料理教室に通って下さっていた方からのご招待である。朝からどしゃぶりの雨の神戸だったが、熊本行きの便になんとか乗り目的地まで支障なく旅ができ、なんと胸をなでおろしたことだろう。

 

アメリカから日本までの切符をもっていると、日本国内どのレグも1万円という「VISIT JAPAN」の空の旅の優遇がある。ご存知でしょうか? という私も、今回、3レグを買ったのははじめて。円高なので、やはり結構するが、どのレグでも均一というのがとても魅力だ。

 

熊本に着き、飛行場から家への帰り道、もう、温泉に浸からせてもらう。昨年、京都のあの銭湯、船岡温泉へ誘っていっしょに出かけたおり、電気ショックの湯にその入り方や効能を教えてもらって、やみつきになったものだが、その温泉にも、それが備わっていて、朝から、飛行機が飛ぶか飛ばないかとか、旅の荷物の移動などで、やはり、体、肩がこっていたので、さっそくもみほぐす。普段着で、下駄履きで行ける近所の温泉、いいなあ!

 

翌日は、朝から、私の為に茶事をしてくださる。といっても、九州らしいおおらかさがつきまとった茶事。着物をいれるとスーツケースがまた余分にひとついるので、もってくるのをやめたのだが、衣装ダンスを何本ももっている彼女は、前日から、2-3枚、着物一式を用意してくれていた。秋らしいとんぼの柄のベージュの着物は、みるなり大好き!とおもえ、着ても夏焼け肌によく似合う。茶事も、献立もその場、その場で決めて、お客様も参加型で、キッチンであれこれ作るのを手伝う。お料理の目鼻立ちがつき、席に入り、正客をさせていただく。前日、温泉がえりに買った野の花、すすき、秋の草花をほんとうに無造作になげこみ、本当に肩の凝らない茶事だ。茶事がおわったら、また普段着のちがう温泉に入りに!

 

翌日は遠出をした。一昨年案内していただいた黒川温泉をとおりすぎ、山の盆地にある村、道のあちこち、家の石垣から湯煙がもうもうと出ている。田んぼには、まるで地獄温泉という風情、泥からぷくぷく温泉が湧き出ている。その近くに、温泉と温泉の蒸気で蒸し料理を食べさせる所があると聞いて目指して行ったのだが、あいにく定休日にあたって、お休み。でも、村をぶらぶら歩き始めると、温泉の蒸し料理研究所とかいう看板がかかっていて、ドアが半開きになっている建物があったので、のぞいてみると、蒸気のおくどさんが、何基かあって、湯気がもうもう。本日は、ここもお休みだったのだが、親切にもお茶を出してくださったり、おいもを蒸してくださったり、遠来(シアトルから来たわたしのこと!)の旅人をもてなしてくださる。そして、ついでに、お風呂までみせてくれる。なんと、湯船の手前には岩盤浴用が一基そなわっていて、バスタオルをひいて岩盤浴ができるのだ。『夏はさすが、暑いですけど』、そうでしょうねえ。でも、夢のような話。温泉も岩盤浴も大の大好き!いいなあって、ため息がでてしまう。帰りに、また、普段着の温泉へ、もちろん。

 

翌朝、鹿児島に出発する前に、その方の茶友達の茶室見学。京都の五条から築80年の茶室を京都の中村工務店が移築したというのだ。母屋の屋根とこの茶室の屋根は、線がちがう。京都からのは、屋根がやわらかくカーブしていて、もともとの母屋の熊本魂がすきっと男らしく、びーと敷かれているのとは、ちがい、はんなりがこういうところにも現れている。京都のたおやかさが、なんともいえない。

 

炉開きに、茶室開きをする道具立てにめききの方が京都からふたり見えるというので、その前に茶室を案内していただく。立地は、大分県、熊本県、宮崎県の三県の山々が庭からながめられ、庭の下50―60メートル下には、なんと川の支流が流れ、その川音がやんわり届いてくるっという、すばらしい地所。茶碗のお箱書きが3重にもなったふろしきは、もとの何倍の大きさの箱を包んでいるし、ちらっとみた茶杓の箱は、少庵とある。みせてもらうと、煤竹で、蟻腰の高い、細い、きりっとした飴色の茶杓。恐れ多いが、実物を手のひらにのせて、なんて、茶人冥利なことだろう。

 

そこそこに茶室をおいとまし、鹿児島へ車で出発。その方の妹さんのところへ一日の旅。宮崎をざーっと南下して、霧島連山を越えて、鹿児島入り。霧島を降り、昨年有名になった坂本龍馬がお龍さんと新婚旅行で滞在したという温泉は、目下工事中で、そばの川のせせらぎをききながら、足湯にはいった。足湯だけでも、旅の道中の疲れはとれる。しっかり温泉に入りたいとさらに、車がすすみ、地元の人に聞いて、入ったのは川のそばの立派な構えの温泉。湯は、ぬるいのとあついのにわかれ、外に水風呂がある。熱いのに入っては、外の川を前にして、冷たい水風炉に入る。あとで、宿のキーパーにきくと、この水も温泉の泉の水なんだって! こんなごきげん温泉の入浴料がたったの200円! 今までで一番安いとおもうが、ごきげん!ごきげん! 熱い温泉に入って、外の川風に吹かれ、冷泉に入って体を冷やし、また熱い温泉の繰り返しを、1時間近くも!たまらない。

 

夕方、鹿児島に着き、妹さん宅ではテーブルに乗り切れないほどのごちそうを用意して待ってくださっていた。噂に聞く通り、大の料理好き。それも長年高校の教師をしてきて、その上、趣味が陶器集め、料理と器を楽しんでおられる。家に招かれ入るなり、戸棚にぎっしり、部屋の隅々まで、趣味よく器をならべておられ、目を楽しませてくれる。

 

翌日、桜島を横にみながら、薩摩富士、開聞岳ちかく、指宿の砂蒸し温泉に行く。大昔、瀬戸内海を渡って別府までクルーをしていたMINERVA III(大型ヨット)でよくでかけていたが、宮崎までクルージングした際、霧島の雅叙園にとまり、この指宿にも連れて来てもらったことがある。ゆかたのまま浜辺にねそべって、砂を上からかけてもらう。地熱でほかほかになる。海の大きさ、地球のいのちに抱かれて、心地よい事この上なし。

 

滞在最後の日は、フライトが夕方なので、家から10分という塩湯温泉に行った。ご近所の温泉であるが、ここも最高にいい温泉! 露天風呂もあったのだが、そこまで、回る時間がなく、あとからきいたら、露天が一番熱かったんだって! 次回の楽しみに。鹿児島空港では、ギャラリーがあるとのことで、観に行ったら、ご夫婦でそれぞれのアートを展示しておられる方達がいて、とっくりと猪口を記念に買って帰った。あじわい深く、ほのぼのとしたもの。我が家の戸棚ももう、大分一杯、中身を一度しっかり整理し直さないと入らない。

 

6日間、毎日、温泉三昧、九州のよさを今回もとっぷり味わせてもらった旅だった。あの温泉蒸し料理、すばらしい茶室での茶の湯、塩温泉、また行ける機会があれば!

 

2011年9月

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