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FOOD TALK

上海蟹

 

 

9月の中旬から一カ月日本に滞在していた時、2週間後、東京で仕事をすませてきた主人と名古屋で合流。その前日まで2日間、私はカリフォルニアのオレンジの会社社長ご夫妻を京都に案内していたのだが、一晩、名古屋で泊まったあと、名古屋の取引先の社長ご夫妻と我々の3カップルで、一路上海へ。

 

余談だが、サンフランシスコ生まれの我が娘が今、NYCに住んでいる。小学校から高校まで土曜日の日本語補習学校をきっちり終えた彼女にメールをうつ時は、できるだけ日本語で書く。返事は英語なのだが、この時『今度、上海へ行くよ』と書いたら、「What is JYOKAI?」という返事がきて、えー、この子、上海という字を知らなかったんだ、と。仕事でも関係のある「北京」は知っているのに。

 

仕事関係とはいえ、長年の取引相手は我が家にもよくいらっしゃるし、カリフォルニアのオレンジの会社社長の奥様は、3年ほど前、彼女の主催するファンドレイジングに、第一回のゲストシェフに呼んでくれたりして、会も大成功に終わり、あうんの呼吸の関係が続いているので、楽しい修学旅行のようなものだ。着いてすぐ、主人達が仕事をしている間に奥さん方は、上海サイドの取引先の黄哲社長夫人にいろいろ案内された。なかでも、上海の有名なマーケットに買い物に行った際、その品物の安さに驚いた。そして念願の小籠包を食味に、レッツゴー!

 

このレストランは、小籠包だけの専門店である。昔の日本もしかりと思う。人の順番の待ちで、ぐずぐずしていると、いつまでたってもテーブルに着けない。30分ほど待って漸く着席。黄哲さんがさっそく注文してくださる。我が隣町、ベルビューにも小籠包を食べさせる店があるが、とても、そんなにおいしいとは思えなくて、上海の本場の味は?と期待が高まる。あつあつの蒸籠がいくつも並べられる。えっ、こんなに食べられないよと思いきや、どんどん、どんどん、三人で食べちゃうのだった。蒸籠も時代がかっていてというか、年季をつんで、その風情がいい。本当に、中国大陸で食べているんだという感慨。そういえば、バンクーバーにも小籠包を食べさせるお店があると、作家の桐島洋子さんがいってたっけ、今度案内するといわれて。興味津々だ。たっぷり、小籠包を堪能して、異国情緒たっぷりの川岸の散策。昔の歌にでてきそうな、蘇州なんとか、だろうか、そして、おなじみの上海のフォトストップ。歩き疲れたあとは、服を着たまま、全身マッサージの接待。きっちり一時間、うとうとしながらの施術。仕事を終えた主人達は、フットマッサージを受けていた。

 

上海に来たからには上海蟹を。招待側の梅さんは前夜、来賓や要人、御用達の中国料理のお店の特別室に案内してくださったのだが、翌日、上海蟹の一番いいのを注文しているからと、期待に輪をかけさせてくれる。

 

マッサージサロンから歩いての距離、服も日中のカジュアルなまま、着いた所は、和食のお店。上海で、和食か!とちょっとがっかり目の気分は、そのまま、日本ですでにすばらしい和食を何度もいただいてきて、そのすばらしい味をここで忘れたくない!とはじめからわたしは、気乗りしなかった。案の定、刺身にしろ、なにを注文しても、おいしいこと、うれしいことはひとつもない。でも、メニュ-をみると、とても高額、最大級のもてなしをしてくださっているのだ。ちょっと残念、と、もっぱら会話に花を咲かせようと、この宴会は、主人の仕事なのだから、奥さんがすねてては、一大事(本当にわたしは、何事もポーカーフェイスができない性分)せっせと気分転換をはかる。

 

にわかにどよめいたのは、大皿に盛りきれないぐらいのゆでた上海蟹が運ばれて来た。やったぜベービイー! 何年か前、神戸の中華料理で食べて以来。ひとり3匹ほどがノルマ! ウエストコーストのダンジネスクラブの肉厚で食べごたえのある蟹とちがって、本当に赤ちゃんのような蟹、食べるところなんてほとんどないし、食べるのに苦労する。ところが、なんと、斜め前にすわった上海の会社関係の某氏の蟹さばきのうまさは別格。その食べ方はまるでショーを見ているようでみとれてしまった。まさに上海蟹を食べるアートといってよい。やはり、地元の方は慣れていらっしゃるにしても、彼の業は素晴しい。われわれが下手メタに格闘して、さっぱり食べた気分にならないのを後目に、蟹の足を口でポイポンチュッとリズミカルに食べていかはるのである。この技極めりの感あり。ただただ見とれていた。結構無口な方だったのだが、彼から発する音楽のような、見事な旋律はまさにすばらしい芸術。旅すればこそ、出会うこういう楽しさ。旅の醍醐味だろうか。

 

ただ、シアトルに帰ってきて、これから、冬場は、ダンジネスクラブのシーズン。我々にとっては何に使ってもおいしいこの地元の蟹は、フランスで食べるブルークラブに比べても、ずーっといい。ただ、北陸や山陰でとれる松葉ガニは、やはりさすが! 北海道の毛ガニも、ここらへんでは冷凍でしかお目にかかれないアラスカンクラブも、ロスのしゃぶしゃぶの店『かがや』では、アラスカから生で仕入れて、食べさせてくれる、これは本当においしい。

 

上海蟹の修業は、まだ積んでいない。もう少し時間をかけて、食べ方や食しかたをならわなあかんな。

 

2010年10月